脂肪が過剰に蓄積した状態で、BMI≧25のものを肥満といい、BMI≧35を高度の肥満といいます。また肥満があり、肥満に関連する健康障害(生活習慣病、心・脳血管障害など)を合併し、医学的に減量を必要とする状態を肥満症と言います。内臓脂肪型肥満は、現在健康障害を伴っていなくてもリスクが高いため肥満症と定義します。
2019年の調査では、肥満者の割合が最も多くなるのは男性では40・50歳代、女性では60歳代でした。また50年前と比較すると、肥満者の割合は男性では約2倍となっていますが、女性では横ばい~やや減少となっています。つまり成人男性の肥満者傾向が増加傾向にあります。
1.食生活食事内容について、砂糖入り飲料、人工甘味料、高脂肪食、多量飲酒は肥満のリスクを高めると考えられます。一方、全粒穀類、食物繊維、果物、野菜、乳製品などは肥満を抑制する可能性が示唆されています。食行動に関して、早食いは満腹感を感じる前に食べ過ぎてしまうため、太りやすいとされています。また朝食を抜くこともその後の食べ過ぎをもたらす可能性があります。
2.運動当たり前ですが、運動量が多ければ体重減少しやすくなります。座っている時間が長いと肥満になりやすくなり、テレビを見ている時間が長いとリスクが高いとされています。
3.睡眠現代では睡眠時間が短い人が増加しており、体重増加と関連していると報告されています。睡眠不足による空腹感増強、接触回数・摂取カロリーの増加などが推測されています。
以下に示すように、あらゆる疾患の原因となっているのは肥満です。それぞれの疾患はいわば「枝葉」の部分であり、肥満は「幹」です。「幹」が改善すると「枝葉」の部分も改善しやすくなります。
1.肥満症の診断に必要な健康障害
2.肥満症の診断には含めないが、肥満に関連する健康障害
二次性肥満は原疾患への対応が必要となるため、まず原発性肥満と二次性肥満を判別することが必要です。次にBMI<35の肥満と、BMI≧35の高度肥満を区別します。健康障害を伴うか、内蔵脂肪型肥満である場合、肥満症または高度肥満症と診断します。
食事、運動で効果の得られない場合には薬物治療を検討します。
1)GLP-1受容体作動薬
糖尿病治療薬として用いられます。食欲抑制作用、腸管運動抑制作用があります。セマグルチドは週1回の皮下注射製剤(オゼンピック)と毎日1回内服の経口製剤(リベルサス)があります。リベルサスは起床時に少量の水で服用し、少なくとも30分は飲食できません。その他1日1回の皮下注射製剤のリラグルチド(ビクトーザ)、週1回製剤のデュラグルチド(トルリシティ)があります。最近チルゼパチド(マンジャロ)が登場し、より強い血糖降下作用と体重減少作用があります。糖尿病がなくても肥満症に対して使用できるセマグルチド(ウゴービ)が承認されました。現時点ではまだ使用できませんが、今後保険診療で使用できるようになります。
2)SGLT2阻害薬
糖尿病治療薬として用いられます。尿中に糖を排出して血糖値を下げます。1日あたり80gのブドウ糖を排出するので、減量効果があります。
3)ビグアナイド、αグルコシダーゼ阻害薬
糖尿病治療薬として用いられます。軽度ですが、体重減少作用を認めます。
4)マジンドール(サノレックス)
食欲を抑制作用があります。保険適応の条件は高度肥満症です。覚せい剤と一部作用が似ているので、慎重に使用すべき薬剤です。
5)オルリスタット(ゼニカル、アライ)
ゼニカルとして美容クリニックを中心に処方されていましたが、2023/3に処方箋がなくても薬局で購入できる薬(アライ)として承認されました。現時点ではまだ薬局で購入することはできませんが、今後できるようになる見込みです。脂肪分解酵素であるリパーゼを阻害して、食事由来の脂質の吸収を抑制します。注意すべき副作用として、自覚なく肛門から油が漏れること、脂溶性のビタミンが欠乏する可能性があること、が挙げられます。
手術適応は、年齢が18-65歳の原発性肥満で、6か月以上の内科治療で体重減少や肥満関連健康障害が改善しない高度肥満症となっています。さまざまな手術方法がありますが、保険適応となっているのはスリーブ状胃切除術のみです。