太っていることすべてが病気というわけではありません。医学的には、単に体重が多い状態である 肥満 と、治療が必要な病態である 肥満症 を明確に区別しています。
日本では、肥満の判定にBMI(Body Mass Index)という体格指数を用います。 BMIは 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m) で計算されます。
・BMI 25以上:肥満
・BMI 35以上:高度肥満
BMIが25以上で、肥満に起因・関連する健康障害(糖尿病や高血圧、睡眠時無呼吸症候群など)を合併しており、医学的に減量が必要な状態を指します。 また、健康診断などで異常が見つかっていない場合でも、内臓脂肪型肥満(お腹の内側に脂肪が過剰に蓄積している状態)であれば肥満症と定義されます。内臓脂肪の蓄積は、将来的に糖尿病や心血管疾患などの深刻な病気を引き起こすリスクが非常に高いためです。
つまり、見た目の問題ではなく、健康への悪影響があるかどうかが肥満症の判断基準となります。
2019年の国民健康・栄養調査によると、日本人の肥満者の割合は以下の年代で最も多くなっています。
・男性:40代から50代
・女性:60代
約50年前と比較すると、女性の肥満者は横ばいからやや減少傾向にある一方で、男性の肥満者は約2倍に増加しています。特に働き盛りの男性において肥満が深刻な問題となっています。 この背景には、食生活の欧米化、車社会やデスクワークによる運動不足、現代社会特有のストレスや睡眠時間の短縮など、生活環境の変化が大きく影響しています。
肥満症は単なる 食べ過ぎ や 意志の弱さ だけで起こるものではありません。生活習慣、環境、遺伝的な体質、ホルモンバランスなどが複雑に関係して発症する病気です。
摂取カロリーの過多だけでなく、何をどのように食べるかが重要です。
・砂糖入り飲料(ジュース、清涼飲料水、缶コーヒーなど)
・人工甘味料を多く含む加工食品
・脂質の多い食事、高カロリー食
・多量の飲酒
・早食い(満腹中枢が働く前に食べ過ぎてしまう)
・朝食を抜く習慣(空腹時間が長くなり、昼食や夕食でのドカ食いを招く)
一方で、野菜、果物、全粒穀類、海藻類、乳製品などは、体重増加を抑える可能性があると報告されています。
摂取したカロリーよりも消費するカロリーが少ない状態が続けば、余ったエネルギーは体脂肪として蓄積されます。 ジムに通うような特別な運動だけでなく、日常生活での活動量(NEAT:非運動性身体活動)が重要です。座っている時間が長い人や、スマートフォンやテレビを長時間視聴する習慣がある人は、肥満のリスクが高まることが知られています。
睡眠不足は肥満の強力なリスク要因です。睡眠時間が短くなると、体内でホルモンバランスの変化が起こります。
・グレリン(食欲を増進させるホルモン)が増加する
・レプチン(食欲を抑制するホルモン)が減少する
この結果、身体的な必要性以上に食欲が湧き、間食や夜食が増えてしまい、摂取カロリーの増加につながります。
肥満は多くの病気の根本原因となります。病気を木に例えるなら、肥満は 幹 であり、糖尿病や高血圧などの合併症は 枝葉 です。幹である肥満を治療することで、多くの枝葉の病気も同時に改善することが期待できます。
以下のような病気がある場合、減量治療の優先度が高くなります。
・糖尿病、耐糖能異常
・脂質異常症
・高血圧
・高尿酸血症・痛風
・心血管疾患
・脳梗塞、一過性脳虚血発作
・代謝異常関連脂肪性肝疾患/脂肪肝炎(MASH、MAFLD)
・月経異常、女性赴任
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群、肥満低換気症候群
・変形性関節症、変形性脊椎症
・肥満関連腎臓病
診断基準には含まれませんが、以下の病気も肥満との関連が深いとされています。
・悪性疾患(大腸癌、食道腺癌、子宮体癌、膵臓癌、腎癌、乳癌、肝臓癌)
・胆石症
・静脈血栓症、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
・気管支喘息
・皮膚疾患
・男性不妊
・逆流性食道炎
・精神疾患(うつ病など)
まず、ホルモンの病気や薬剤の副作用による 二次性肥満 ではないかを確認します。その上で、BMIと健康障害の有無、内臓脂肪の蓄積状況を評価し、肥満症 または 高度肥満症 と診断します。
治療の最大の目的は、体重を減らすことそのものではなく、健康寿命を延ばし、生活の質(QOL)を高め、将来の重篤な病気を予防することです。 無理に標準体重まで落とす必要はありません。現体重の3パーセントから5パーセント減少させるだけで、血糖値、血圧、脂質データなどの検査値が改善することが多くの研究で証明されています。高度肥満症の方でも、5パーセントから10パーセントの減量がひとつの目安となります。
基本は食事療法と運動療法による生活習慣の改善ですが、それだけでは十分な効果が得られない場合や、合併症のリスクが高い場合には、薬物療法や外科治療(手術)が検討されます。
医師の管理のもと、患者さんの病態に合わせて適切な薬剤を選択します。
食事・運動療法だけでは十分な効果が得られない場合、薬物療法を検討します。保険適応となっているのは1)2)です。
1)GLP-1受容体作動薬
糖尿病治療薬として用いられます。食欲抑制作用、腸管運動抑制作用があります。条件を満たせば、糖尿病がなくても保険適応となる場合がありますが、さまざまな条件(処方までに6か月以上の通院と生活習慣指導が必要、投与後も2ヶ月に1回以上の栄養指導の継続など)があり実施できる医療機関は限られます。
2)マジンドール(サノレックス)
食欲を抑制作用があります。保険適応の条件は高度肥満症(BMI35以上)です。覚せい剤と一部作用が似ているので、慎重に使用すべき薬剤です。
3)SGLT2阻害薬
糖尿病治療薬として用いられます。余分な糖分を尿に出し、血糖値を下げます。1日あたり約200~300kcalのカロリーが体の外に出ていきます(目安:半年~1年で約2~3kg程度の減量効果)。脂肪だけでなく、内臓脂肪の減少にもつながるといわれています。
4)メトホルミン
糖尿病治療薬として用いられます。血糖値を下げるだけでなく、体重増加を抑える効果があることが知られています。半年~1年で1~3kg程度の体重減少が報告されています。
5)オルリスタット(ゼニカル、アライ)
脂肪分解酵素であるリパーゼを阻害して、食事由来の脂肪の吸収を抑制します。注意すべき副作用として、自覚なく肛門から油が漏れること、脂溶性のビタミンが欠乏する可能性があること、が挙げられます。
内科的な治療を6ヶ月以上行っても改善が見られない、18歳から65歳の高度肥満症の方が対象となります。日本では現在、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術などが保険診療で行われています。
当院では、医学的根拠に基づいた肥満治療を行っています。 BMI27以上の方を対象としています。 患者さんの状態(糖尿病、高血圧、脂質異常症などの有無)によって、保険診療になるか自費診療(自由診療)になるかが異なります。 適切な診断のため、1年以内の健康診断の結果があれば必ずご持参ください。
食事療法や運動療法を行っても改善が難しい場合、薬物療法を導入します。 糖尿病の診断がない方が減量目的で薬剤を使用する場合は、全額自費診療となります。
・初診料:3,000円(税込) ※糖尿病がなく、初診時から自費薬剤を使用する場合
・再診料:1,000円(税込) ※診察のみの場合。薬剤処方がある場合は薬剤費に含まれます。
| 薬剤名 | 販売単位 | 税込 |
| マンジャロ2.5mg | 1本(1週分) | 5500円 |
| マンジャロ5mg | 1本(1週分) | 8800円 |
| リベルサス3mg | 30錠(1か月) | 9900円 |
| リベルサス7mg | 30錠(1か月) | 20900円 |
| リベルサス14mg | 30錠(1か月) | 33000円 |
| カナグル100mg | 30錠(1か月) | 16500円 |
上記の薬剤は医学的に体重減少効果が認められていますが、薬さえ飲めば痩せる、好きなだけ食べても大丈夫 という魔法の薬ではありません。健康的に痩せ、その体重を維持(リバウンド防止)するためには、食事内容の見直しや適度な運動など、生活習慣の改善を並行して行うことが不可欠です。当院では、薬物療法と生活指導を組み合わせ、患者さんが健康的な体を取り戻せるようサポートいたします。